西村さんの雑記ログ

技術や趣味について色々。

最近読んだ本について(2021.11~2022.1)

最近読んだ本の話をボチボチと。

冲方丁「光圀伝」文庫版(上・下)

天地明察」でも登場した水戸光圀の半生を描く時代小説。「兄が生きているのになぜ自分が世子(跡継ぎ)に選ばれたのか」と悩みつつ、荒れる青年時代前半。ちなみにここで生き方を見直す事になったとある事件は「剣樹抄」でも重要な出来事として顔を出します。様々な人と出会っては別れ、やることを見出していき邁進する青年時代後半からは熱いですね。冒頭に描かれるクライマックスで自らが育てた部下を殺すことになるのですが、その理由と成り行きが切なかったです。
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冲方丁「剣樹抄」文庫版

江戸の時代、実の父を殺され、養父を大火で失い、木剣を使った独自の剣術で身を守って生きる了助。ふとしたことから特殊の技術をもって幕府の配下として江戸の悪事を探る子どもたちの集団「拾人衆」の仲間となり、江戸を脅かす悪の企みに立ち向かっていく話です。
もうひとりの主人公的な立場で、「光圀伝」で描かれた泰姫と結婚したあたりの水戸光圀が登場します。
「拾人衆」の仲間たちの特技をもって明かされていく悪の計画を打ち倒すさまはかなり痛快です。しかしそればかりでもなく、仲間たちと寺で暮らして様々の人に会って変わっていく了助の心や、影のように落ちる実の父が殺された事件に関する展開がまた違う味を出しています。
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冲方丁「剣樹抄 不動智の章」

上記の「剣珠抄」の続編です。「拾人衆」としての生活にも段々と慣れ、様々な事件を通して仲間たちと仲を深めていく中、遂に了助は父親の仇を突き止める。仇と対峙し、憎しみとやるせなさがないまぜになった了助は、縁あって旅の僧で剣の達人の柳生六郎(列堂義仙)に連れられて旅に出る……
「光圀伝」を読んでいると大方予測はつくのですが、遂に了助の父の仇が発覚します。「光圀伝」で裏側をある程度知っているだけにここは結構心に刺さります。
武道で「心技体」と言いますが、このシリーズは「心技体」の「心」の部分に焦点をあてているのかなと感じる描写やストーリーが多いです。いくら剣の技が強くてもその使いみちや心が狂ってしまえば「地獄」に陥ってしまう、そういう話だなと思って読んでいます。
旅の中で了助が烈山に教わる体を壊さない旅の方法や、東海寺で学んだ禅の動きを烈山との旅で彼から更に学んで行く辺りはことさらそう感じます。
江戸を出て烈山の目的地である日光を目指す過程で見る、江戸近郊の人々の暮らしの描写がまた良いです。
最終盤ではまさかの展開と思わぬ人物が幕府側につくことを突入してきた光圀たちに宣言してきて、続きがとても気になる展開です。
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笹本祐一「星のパイロット」

朝日ソノラマ文庫で出たものが長らく品切れだったのですが、「妖精作戦」シリーズに続いて創元SF文庫で復刊しました。
母艦を使った空中射出型の小型シャトルで衛星軌道上の作業を行う近未来、新米宇宙飛行士の主人公が宇宙作業を請け負う風変わりで小さな会社で初めての衛星軌道作業に挑む話です。
作者が宇宙関係の話が好きなんだろうなというのがよく分かるくらい、実際に飛ぶまでの射出や帰投の訓練やチューニング、実際の作業時の描写でワクワクしました。
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雲居るい「破蕾」 文庫版

冲方丁先生の初の官能小説を別名義で文庫化。
江戸の時代に家を中心とした色んなものに翻弄される三人の女性の官能話。
三編の短編で一人ずつ描かれ、話としては三編とも独立はしていますが、ある事件によって繋がっているという構成は中々面白かったです。
エロや官能よりも女性のやるせなさの方を強く感じました。
出版社も一般向けなので、官能小説としてはソフトかと。
帯の「泣ける」は少し大げさな感がしないでもないですが……
単行本のときはまだ別名義としていなかったことで「冲方丁」名義だったのですが、この先また官能小説を書くとしたらおそらくこの名義かなと期待しています。
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冲方丁麒麟児」文庫版

数年前に角川書店から単行本で出ていた本の文庫版です。
幕末、旧幕府と新政府の江戸での激突を防いで江戸城無血開城のために奔走する勝海舟の話です。
割と勝手な行動ばかり取る旧幕府の面々に振り回されつつも燃える勝海舟はいいキャラです。そして新政府方でありながらどことなく色々と通じるものがある西郷隆盛と、江戸城無血開城と旧幕府のその後の処遇を巡って裏で策を張りつつの論戦が熱かったです。
終盤で西南戦争についてのシーンがあるのですが、前述のシーンの熱さのせいか、寂寥感を覚えました。
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